2019.07.17(更新日:2019.07.17)
皆さんは「閾値(いきち)が下がる」という言葉を使ったり、意識したりしますか。
整形外科、ペインクリニックでよく使われる言葉で、同じ痛みや刺激でも、痛みを感じるかどうか、またどの程度強く感じるかは、その人の精神状態、置かれた社会的状況などに左右されるという意味です。
個人差も大きいです。
私は呼吸器内科が専門ですので、気管支喘息の患者さんが解熱鎮痛剤を服用したときに、喘息が悪化することがあり、「閾値が下がっているな」と判断します。
一般的には「アスピリン喘息」と呼ばれているのですが、アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどの解熱鎮痛剤を服用すると、喘息が悪化したり、場合によっては、命に関わるような大発作を起こしたりと大変危険です。
ただ、アスピリン喘息は、典型的には、30~40歳代に嗅覚低下、鼻茸、副鼻腔炎などで発症し、そのうち吸入ステロイドもあまり効かないようなコントロール不良な気管支喘息になりますので、医師としましても十分に注意しながら治療します。
その一方で、タイトルにありますように、アスピリン喘息ではなく、通常の喘息患者さん(普段は頭痛薬や湿布を使っても何ともない喘息患者さん)が、風邪、気候の変化、ストレス、睡眠不足などで、「気道過敏性の閾値が下がっている」状態があります。
このような状態で、解熱鎮痛剤(市販の風邪薬や湿布薬に含まれていたり、整形外科から処方されていたりします)を使用しますと、大発作まではいかなくても、喘息が悪化したり、吸入ステロイドなどの効くはずの薬が効かなくて、患者さんも医者も困るという状況に陥ります。
2週間ほどして、「ひょっとして、他の病院でもらった痛み止めを飲んでいませんか?」「市販の湿布を貼ったり、頭痛薬を飲んでいたりしませんか?」と尋ねて、「はい、飲んでいます。」と言われることがあります。
普段は何ともないわけですから、意識しないのも当然ですよね。
それが分かれば、アスピリン喘息について説明し、解熱鎮痛薬の服薬を中止してもらうと、数日で軽快することがよくあります。
今回は「閾値」について、ふと思ったことを書きましたが、日常生活で閾値を意識するのは、「怒りの閾値を上げる(怒りをコントロールする)」ことでしょうか。
痛みも、気道過敏性も、怒りも、閾値が下がるのは簡単(勝手に下がる)ですが、上げるのは難しく、努力が必要ですね。